X線管装置(ヒール効果、ブルーミング効果、焦点外X線、許容負荷、正焦点、副焦点など) 診療画像機器学
今回解説する内容は、得意な人と苦手な人がはっきり分かれる分野だと思います。下級生や文系出身の方は特に苦手意識があるかもしれません。
ですから、今回の解説は苦手意識のある方でもスムーズに国試合格レベルに到達できるように工夫しました。
苦手意識のある方は理屈で難しく考えようとはせずに、まずは想像力をフルに活用し「イメージ的にはこんな感じかなぁ」ぐらいで読み進めていってください。
どうしてもイメージが湧きにくいものに関しては教科書の図と照らし合わせながら読んでみてください。
《X線管装置》
・X線管装置とはX線を発生させる装置です。陰極(フィラメント)から発生した電子ビームを陽極(ターゲット)にぶつけて放射状にX線を発生させます。また、電子ビームが衝突したターゲット上の部分の面積は実焦点と呼ばれます(実焦点については後程詳しく説明します)。
・放射状に発生したX線は自身のX線発生強度とX線(空間)強度分布を持ちます。
・「X線強度は陰極側に近づくほど強くなっていき、陽極側に近づくほど弱くなっていく」といったような分布になります。この現象をヒール効果といいます。また、ターゲット角度が小さいと分布変化の度合いは激しくなります。ざっくり言うと、これはターゲット角度が小さいほど発生したX線が減弱の影響を受けやすいからです。
とりあえず全体的な話はこれくらいです。これ以降は陽極(ターゲット)に関連する重要な語句を解説していきます。
ここからは、先ほど保留にした実焦点について解説していきます。
《実焦点・実効焦点》
・実焦点はターゲット上で電子ビームが衝突した部分の面積をいいます。
・実効焦点はX線管の利用線錐の方向から見たときの投影面積をいいます。
・焦点の大きさは管電圧、管電流で変化する。管電圧を高くすると低いときに比べ、電子ビームはより強い力でターゲットに引っ張られることでビーム幅が細くなるため、結果的に焦点は小さくなる。また、管電流を高くすると低いときに比べ、放出される電子の量が増えることで、電子同士の反発力が大きくなる(電子はマイナスの電荷を持っているため、マイナスとマイナスで反発しあう)。これにより、高管電流の場合は焦点が大きくなります。
・管電流により焦点の大きさが変化する現象をブルーミング効果という。
・実焦点の大きさはターゲット角度でも変化します。ターゲット角度が小さいほど実焦点面積は小さくなります。
・焦点の大きさ(寸法)は測定できます。その測定法にはピンホールカメラ法、スリットカメラ法、解像力法がある。(測定法の名前は確実に覚えておいてください。具体的な測定の仕方は本当に余力のある人だけでいいと思います。)
はじめの方に、陰極(フィラメント)からの電子によりX線は発生すると述べました。しかし、電子を放出するのは陰極(フィラメント)だけではありません。陽極(ターゲット)からも発生します。
《焦点外X線》
・ターゲットに衝突した電子の一部は散乱を起こし二次電子となります。このような二次電子は一度陽極の外に飛ばされます。しかし、電界の影響を受け再びターゲットに引き戻され衝突。こうやって発生したものを焦点外X線といいます。
・焦点外X線は焦点近傍で最も多く発生します。
・焦点外X線は焦点近傍は軟質です。焦点から離れると電界の影響が大きくなるため、線質は硬くなります。
・焦点外X線の発生は固定陽極よりも回転陽極で多い。
・X線可動絞りの奥羽根で除去する。(X線可動絞りは別の機会に解説します)
次は、X線を発生する際に生ずる、ターゲットへの負荷について説明していきます。
この負荷の種類には短時間負荷、長時間負荷、混合負荷の3つがあります。(特に重要なのは短時間負荷と長時間負荷です。)
また、それぞれ負荷の許容範囲について、短時間許容負荷、長時間許容負荷といい方をします。
《短時間負荷》
・一般的なX線撮影にて大電流かつ短時間で加えられた負荷のこと。
・短時間負荷は焦点面の温度で制限されます。
《短時間許容負荷を増やす条件=焦点面の温度を低下させるための条件》
・陽極回転数を増加させる。
・焦点軌道直径を大きくする。
・実焦点面積大きくする。
・ターゲット角度小さくする。
・リプル百分率を小さくする。
《短時間許容負荷の式》
この式を用いて計算させるタイプの問題も出題されています。
短時間許容負荷(比負荷)= √陽極回転数× √焦点軌道直径
もう一つ、X線管の短時間最大入力P[W]の式も押さえてください。よく出題されます。
P[W]=管電圧×管電流×f(fの値は問題で与えられる条件によって3種類の中から選択)
f=1.0:リプル百分率が10%以下(12ピーク,定電圧)
f=0.95:リプル百分率が10~25%(6ピーク)
f=0.7::リプル百分率が25%以上(2ピーク)
《長時間負荷》
・透視撮影のように小電流で時間の長い負荷のこと。
・陽極全体の温度で制限される。
《長時間許容負荷を増やす条件=陽極全体の温度を低下させる条件》
・陽極熱容量を大きくする。
・冷却効率を高くする。
最後にその他の重要用語として正焦点、副焦点について解説する。
《正焦点と副焦点》
・正焦点はフィラメントの前面から発生した電子が形成する焦点のこと。
・副焦点はフィラメントの側方や後方から発生した電子が形成する焦点のこと。
・電子密度は副焦点よりも正焦点が大きい。
・正焦点、副焦点の寸法は集束電極中のフィラメントの深さにより決定される。
《副焦点を小さくする条件》
・集束電極の溝幅を狭くする。
・フィラメントの深さを浅くする。(浅くした場合、正焦点は大きくなる)